まとめ(4)- 依頼者と施工業者、意志の疎通を - 第49回

まとめ(4)- 依頼者と施工業者、意志の疎通を - 第49回 部屋の明かりのともった家で、外壁の工事が進んだ

私が住宅の設計をしている際に、「恵まれているな」と思うことがあります。2歳下の弟善賀津が大工の棟梁(とうりょう)をしていることです。住宅はどんなにいい設計をしても、大工を始め施工する人たちの力を借りねばできあがらないからです。弟にずいぶん助けられてきました。

工事について話すうちに、簡単だと思っていたことが、現場に大きな負担をかけていることが分かったり、逆に、無理だとあきらめていたことが実現できました。

住宅の設計者にとって、依頼主と十分話し合うことも大切ですが、それと同様に、工事をする人たちとの意思の疎通が欠かせません。

その弟が「うれしかった」と話すことがあります。ある住宅の外壁を直していたときのことです。12月の工事でしたので、外はすぐ暗くなります。暗くなりかけるとすぐに、その家の部屋の一つ一つの明かりが順番にともっていくのです。その家の人が、作業をしている弟のために、外が少しでも明るくなるようにと、各部屋を回って点灯してくれていたのでした。

実際には、作業の効率にそう差はなかったかも知れません。でも、弟は毎日、部屋の明かりがつくたびに、「もう1時間頑張ろう」と気合を入れ直したといいます。

我々をその気にさせることはこんなに簡単なことなのです。

住宅産業は一面クレーム産業ともいわれます。依頼主から苦情が出るような問題を残さないように、誠実にかつ確実に仕事をするのは我々、設計や施工をする側にとって当然の責務です。

しかし、その前に、建築を依頼する側と依頼される側、その両者の間に信頼関係を作ることが、まず大切なことではないでしょうか。そんな思いも込めて、この1年間、原稿を書かせていただきました。

大瀧雅寛 = 2001年9月19日 朝日新聞(東京本社版)夕刊マリオンから